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事業用建物賃貸借契約書のチェックポイント|オフィス・店舗を借りる前に確認したいこと

■はじめに

「初めてオフィスを借りることになったけれど、契約書のどこを見ればいいのかわからない」——新しく事業を始めるときや、店舗・事務所を借りるときに、こんな不安を感じたことはありませんか。

事業用の建物賃貸借契約は、自宅やアパートを借りる住宅用の賃貸借とは、契約のルールや費用負担の考え方が大きく違います。同じ「部屋を借りる」契約でも、事業用では原状回復の範囲が広かったり、保証金が高額だったりと、後から「思っていたのと違った」と気づくケースが少なくありません。

この記事では、事業用建物(オフィス・店舗)を借りるときに、賃貸借契約書のどこを確認すればよいのか、主なチェックポイントを整理してお伝えします。契約を結ぶ前の確認に、ぜひお役立てください。

事業用と住宅用の賃貸借はどう違う?

まず押さえておきたいのが、事業用の賃貸借と住宅用(居住用)の賃貸借には、いくつかの違いがあるという点です。

借地借家法は事業用にも適用される

建物の賃貸借には、住宅用・事業用を問わず「借地借家法」という法律が適用されます。この法律は、立場の弱くなりがちな借りる側(賃借人)を一定程度保護するためのものです。

ただし、住宅を借りる消費者を保護する考え方と、事業者が事業のために結ぶ契約とでは、実務上の取り扱いに差が出ます。借地借家法には、借主に不利な特約を無効とする「強行規定」(契約で変えることのできない法律上のルール)もありますが、事業用の契約では、この強行規定に反しない限り、契約書に書かれた特約(個別の取り決め)が重要な意味を持ち、借主に不利な条件であっても有効とされることがあります。だからこそ、契約書の中身をしっかり確認することが大切です。

原状回復の負担範囲が広くなりやすい

住宅用の賃貸借では、通常の使用による経年劣化(壁紙の色あせなど)は貸主負担とされるのが一般的です。一方、事業用の賃貸借では、契約で「借主が入居時の状態まで戻す」と定められることが多く、借主の負担範囲が住宅用より広くなる傾向があります。

オフィスや店舗は、内装工事や設備の設置を伴うことが多いため、退去時の原状回復費用が想定以上に高額になることがあります。この点は、後ほど詳しくお伝えします。

確認すべき主なチェックポイント

ここからは、事業用建物の賃貸借契約書で、特に確認しておきたいポイントを項目ごとに見ていきます。

賃料・共益費・賃料改定条項

毎月支払う賃料と共益費(管理費)の金額は、当然ながら最初に確認するポイントです。あわせて見落としがちなのが「賃料改定条項」です。

第○条(賃料の改定)
賃貸人は、経済情勢の変動、公租公課の増減等により賃料が不相当となったときは、賃料の増額を請求することができる。

契約期間の途中で賃料が見直される可能性があるのか、どのような場合に改定されるのかを確認しておくと安心です。なお、賃料改定は貸主からの増額請求だけでなく、借主側から賃料の減額を求める場面にも関係します。増額・減額のどちらについても、どのような事情があれば協議の対象になるのかを確認しておくとよいでしょう。支払期日や支払方法も、後のトラブルを避けるために明確になっているか見ておきましょう。契約書に支払条件を明記しておく重要性については、契約書に「支払条件」を明記すべき理由の記事もあわせてご覧ください。

賃料・共益費にかかる消費税

事業用の建物賃貸借では、住宅の貸付けと異なり、賃料や共益費に消費税がかかるのが通常です。契約書や請求書上、表示されている金額が税込なのか税別なのかを確認しておきましょう。

賃料・共益費のほか、礼金、更新料、看板使用料、駐車場使用料などについても、消費税の扱いが明確になっているかを見ておくと安心です。なお、個別の取引における消費税の具体的な取扱いは税務判断を伴う場合があるため、迷うときは税理士や税務署に確認するのが確実です。

敷金・保証金(償却の有無)

事業用の賃貸借では、住宅用に比べて保証金や敷金が高額になることがあります。賃料の数か月分から、場合によっては1年分近くを求められるケースもあります。

特に注意したいのが「償却(敷引き)」の取り決めです。これは、退去時に保証金の一部が返還されない仕組みのことです。

第○条(保証金)
本保証金のうち、賃料の○か月分に相当する額は、契約終了時に償却するものとし、賃借人へは返還しない。

「保証金は退去時に全額戻ってくる」と思い込んでいると、想定外の負担になることがあります。償却の有無と金額は、契約前に必ず確認しておきましょう。

契約期間・更新(普通借家と定期借家の違い)

契約期間と、期間が満了したあとにどうなるかは、事業の継続に直結する重要なポイントです。ここで知っておきたいのが「普通借家契約」と「定期借家契約」の違いです。

  • 普通借家契約:契約期間が満了しても、原則として更新され、借主は引き続き建物を使い続けやすい仕組みです。貸主が更新を拒むには「正当事由」(貸主自身が建物を使う必要性など、更新を断るだけの正当な理由)が必要とされ、借主が保護されやすい契約です。
  • 定期借家契約:あらかじめ定めた期間が満了すると、更新されずに契約が終了します。再び借りるには、貸主との間で新たに契約(再契約)を結ぶ必要があります。事業用の建物でも用いられる契約です。

自分が結ぼうとしている契約がどちらなのかは、必ず確認しておきたいポイントです。定期借家契約は、書面または電磁的記録(電子契約)によって契約する必要があります。また、契約前に「更新がない契約である」旨を記載した書面を交付し、または借主の承諾を得て電磁的方法により提供したうえで、説明することが法律上求められています。契約期間や自動更新の仕組みについては、契約書の有効期間と自動更新条項の記事も参考になります。

中途解約・解約予告期間

事業の状況によっては、契約期間の途中で退去せざるを得ないこともあります。そのときに関わるのが「中途解約」の取り決めです。

第○条(解約予告)
賃借人は、本契約を解約しようとするときは、解約日の○か月前までに、賃貸人に対し書面により通知しなければならない。

事業用の契約では、解約予告期間が6か月前と長めに設定されていることもあります。予告期間が長いと、その分の賃料を支払い続ける必要が出てきます。また、定期借家契約では、特約がなければ契約期間の途中で解約できない場合もあります。中途解約に違約金が設定されていないかも、あわせて確認しておきましょう。

原状回復の範囲

事業用賃貸借でトラブルになりやすいのが、退去時の原状回復です。

オフィスや店舗では、間仕切りの設置、内装工事、看板の取り付けなど、入居時にさまざまな工事を行うことがあります。退去時には、これらを撤去して元の状態に戻す費用が借主負担となるのが一般的です。

  • どこまでを「元の状態」とするのか(内装をすべて撤去して何もない状態に戻す「スケルトン戻し」か、入居時の状態か)
  • 借主が行った工事だけでなく、通常の使用による損耗まで負担するのか
  • 指定の業者に発注する義務があるのか

これらが契約書のどこに、どう書かれているかを確認しておくと、退去時の費用感を事前に把握しやすくなります。原状回復については、2020年の民法改正で、通常の使用による損耗や経年変化は原則として借主の原状回復義務に含まれないことが条文上明確になりました。ただし、事業用契約では特約でこれと異なる定めを置くことが多いため、契約書の特約条項を丁寧に読むことが大切です。

もっとも、通常の使用による損耗や経年変化まで借主負担とする場合には、契約書上、その範囲ができるだけ具体的に記載されているかが重要です。単に「原状回復する」とだけ書かれている場合に、通常の損耗まで当然に借主負担になるとは限りません。クロス、床、天井、照明、空調設備、看板、造作など、どの範囲をどの状態まで戻すのかを確認しておきましょう。

用途制限・使用目的

契約書には、その建物を「何のために使うか」という使用目的が定められています。

第○条(使用目的)
賃借人は、本物件を○○業の事務所としてのみ使用し、その他の用途に使用してはならない。

契約で定めた用途以外に使うと、契約違反になることがあります。たとえば「事務所」として借りた物件で飲食店を始める、といったケースです。将来的に業態を変える可能性がある場合は、用途の範囲を確認しておくと安心です。

内装工事・看板設置の承諾

店舗やオフィスでは、入居後に内装工事や設備の設置を行うことがほとんどです。内装工事、間仕切りの設置、看板・サインの掲出、電気容量の増設、給排水工事などについて、貸主の事前承諾が必要とされているかを確認しておきましょう。

承諾の手続き(書面によるものか)や、承諾を得ずに工事をした場合の扱いも、契約書に定められていることがあります。開業スケジュールにも関わるため、工事の予定がある場合は早めに確認しておくと安心です。

賃借権の譲渡・転貸の禁止

契約上、賃借権の譲渡や転貸(また貸し)は禁止されていることが多くあります。法人が借主の場合、グループ会社での利用、店舗運営の委託、事業譲渡やM&Aに伴う契約の引き継ぎなどが、この条項との関係で問題になることがあります。

こうした予定や可能性がある場合は、契約書の譲渡・転貸に関する条項を確認し、必要に応じて貸主と事前に協議しておくことが大切です。

造作買取請求権の排除特約

少し専門的になりますが、「造作買取請求権」という言葉が契約書に出てくることがあります。これは、借主が貸主の同意を得て取り付けた設備(造作)について、退去時に貸主に買い取ってもらえる権利のことです。

ただし、実務上は、この権利を「行使しない」とする排除特約が契約書に盛り込まれていることが多くあります。

第○条(造作買取請求権の排除)
賃借人は、本契約終了時において、借地借家法第33条に定める造作買取請求権を行使しないものとする。

この特約があると、退去時に設置した設備を買い取ってもらうことはできません。自分の負担で設備を設置する予定がある場合は、こうした条項があるかどうかを見ておきましょう。

修繕義務の分担

建物や設備に不具合が生じたとき、その修繕を貸主と借主のどちらが負担するのかも、契約書で確認しておきたいポイントです。

事業用の契約では、軽微な修繕や、借主が設置した設備に関する修繕は借主負担とされることがあります。エアコンや給排水設備など、費用がかさみやすい部分の修繕負担がどうなっているかを見ておくと、入居後の予期せぬ出費を避けやすくなります。

トラブルになりやすいポイント

ここまでお伝えしたチェックポイントの中でも、特にトラブルにつながりやすいのが次の2つです。

  • 原状回復:退去時に「スケルトン戻し」を求められ、想定外の高額な工事費用が発生するケース。契約時に範囲を確認しておくことで、退去時のトラブルを減らせます。
  • 中途解約・違約金:予告期間の長さや違約金の有無を見落とし、途中退去のときに思わぬ負担が生じるケース。

契約書は、結ぶときよりも「退去するとき」に問題が表面化しやすいものです。入口の段階で出口(退去時)の条件を確認しておくことが、後々の安心につながります。

なお、すでに貸主との間で原状回復費用や立ち退きをめぐって争いになっている場合や、賃料の支払いをめぐる紛争に発展している場合は、交渉や訴訟への対応が必要になります。こうした紛争性のある案件は弁護士の領域です。また、契約に伴って建物の登記が関わる場面では、登記の手続きは司法書士の領域となります。それぞれの専門家に相談するのが適切です。

契約前に確認しておくと安心

事業用の賃貸借契約書は、住宅用に比べて条項が多く、借主にとって負担の大きい特約が含まれていることもあります。署名・押印をする前に、内容を一つひとつ確認しておくことが、後のトラブルを防ぐうえで大切です。

契約書の文言が専門的でわかりにくい、特約の意味が読み取りにくいといった場合は、契約を結ぶ前に内容を整理しておくと安心です。社内で判断が難しいときは、外部の専門家に契約書の内容を確認してもらうことも選択肢のひとつです。賃貸借契約に限らず、取引の土台となる契約書の考え方については、取引基本契約書とは?の記事もあわせてご覧ください。

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■まとめ

事業用建物(オフィス・店舗)の賃貸借契約書を確認するときのポイントを整理します。

  • 事業用の賃貸借は、住宅用に比べて原状回復の負担範囲が広く、保証金も高額になりやすい
  • 賃料改定条項・支払条件を確認しておく
  • 保証金は「償却(敷引き)」の有無で返還額が変わる
  • 契約期間は「普通借家」か「定期借家」かで更新の扱いが大きく異なる
  • 中途解約の予告期間・違約金を確認しておく
  • 原状回復の範囲(どこまで戻すか)は退去時のトラブルの原因になりやすい。通常損耗まで借主負担とする特約は、範囲が具体的に書かれているかを確認する
  • 賃料・共益費などにかかる消費税の扱い(税込か税別か)を確認しておく
  • 内装工事・看板設置の承諾、賃借権の譲渡・転貸の可否も事前にチェックする
  • 用途制限・造作買取請求権の排除特約・修繕義務の分担もチェックする
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