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AIレビューで見落とされやすい契約書の条項5選

■はじめに

「AIツールで契約書をチェックしたから大丈夫」と思っていませんか?

最近は、契約書のレビューにAIツールを活用する方が増えています。確かに、誤字脱字の検出や一般的な条項の確認といった作業では、AIは大きな力を発揮します。しかし、AIによる契約書レビュー(AIリーガルチェック)には、苦手とする領域があります。特定の条項では、一見問題なさそうに見えても、実はあなたにとって大きなリスクを抱えている場合があります。

この記事では、AIレビューで見落とされやすい契約書の条項を5つ取り上げ、それぞれについて「なぜAIが見落とすのか」「実際のリスク」「専門家なら何を確認するか」をわかりやすく解説します。

AIツールを使いながらも「本当にこれで大丈夫か?」と不安を感じているビジネスパーソンの方にぜひ読んでいただきたい内容です。


■本文

AIによる契約書レビューの現状と限界

AIリーガルチェックツールは、定型的な条項の有無の確認や文言のチェックを高速でこなします。しかし、条項の内容が自社にとって有利か不利かを判断すること、特に「業界慣行」「交渉のバランス」「想定されるリスクシナリオ」を考慮した実質的な評価は、AIが苦手とする領域です。

以前の記事「AIリーガルチェックツールの限界と行政書士に依頼するメリット」でも解説していますが、AIはあくまで「条項の存在」は検出できても、「その条項が実務でどう機能するか」を文脈を踏まえて判断することは難しいのです。

では、具体的にどのような条項でミスが起きやすいのでしょうか。


1. 損害賠償の上限額条項

なぜAIが見落とすのか

損害賠償条項の上限額が設定されている場合、AIは「上限額が記載されている」という事実は認識します。しかし、その金額が自社のリスクに対して妥当かどうか、また双方に同じ上限が適用されているか(片務性の問題)といった実質的な評価は行えません。

たとえば、次のような条項を見てみましょう。

第○条(損害賠償の制限)
いかなる場合も、一方当事者が他方当事者に対して負う損害賠償責任の上限は、本契約締結時に支払われた対価の総額を超えないものとする。

この条項自体に形式的な問題はなく、AIは「損害賠償上限条項あり」と認識するにとどまります。しかし実務では、「契約締結時の支払い額がゼロ円の場合」「相手方の故意・重過失が生じた場合」など、この上限が自社に極めて不利に働く場面があります。

実際のリスク

相手方の重大なミスによって自社が大きな損害を受けたとしても、賠償額がほぼゼロに制限されてしまうケースがあります。また、片務的な上限設定(相手方には上限なし・自社にだけ上限あり)が条文に隠れているケースも見落とされがちです。

専門家なら何を確認するか

  • 上限額が双方に同じ水準で設定されているか
  • 故意・重過失の場合に上限が外れる例外規定があるか
  • 自社が受ける可能性のある損害の規模と上限額が釣り合っているか

損害賠償条項の基本的な仕組みや上限設定の考え方については、別途詳しく解説する予定ですので、あわせてご参照ください。


2. 競業避止義務条項

なぜAIが見落とすのか

競業避止義務とは、「契約期間中・契約終了後に競合する事業を行わない」という義務のことです。業務委託契約やフリーランス契約などで多く見られる条項で、AIは条項の存在は検出しますが、その条項が法的に有効かどうかを判断するのは苦手です。

競業避止義務の有効性は、「期間の長さ」「地域の範囲」「対象となる業種・業務の範囲」などを総合的に考慮して判断されます。これは抽象的な文言の評価であり、文脈や業界事情を踏まえた判断が必要です。

第○条(競業避止義務)
甲は、本契約終了後2年間、乙の事業と競合する事業を日本全国において行ってはならない。

AIはこの条項を「競業避止義務条項あり」と認識しますが、「2年間・日本全国・業務範囲の限定なし」という設定が過度に広く、無効とされるリスクがある点は指摘しにくいのです。

実際のリスク

契約後に新たなビジネスチャンスが生まれたとき、この条項が足かせになるケースがあります。一方で、相手方から義務違反を主張され、損害賠償を請求されるリスクもあります。

専門家なら何を確認するか

  • 競業避止の期間・地域・対象業種が過度に広くないか
  • 自社の事業計画との整合性があるか
  • 制限の範囲が広い場合、報酬や別途の補償でバランスが取られているか

3. 自動更新条項

なぜAIが見落とすのか

自動更新条項とは、契約期間が満了しても一定期間内に解約の意思表示をしなければ自動的に更新される、という仕組みです。AIは「自動更新の定めがある」という事実は認識しますが、更新拒絶のための手続きが自社にとって現実的に対応可能かどうかは判断できません。

第○条(契約の更新)
本契約の有効期間は1年間とする。ただし、期間満了の3ヶ月前までに書面による解約の申し入れがない場合、同一条件で自動的に1年間更新されるものとし、以後も同様とする。

この条項はよくある形式ですが、「3ヶ月前」という期限を見落とすと、不要な契約が継続されるリスクがあります。また、更新後に条件変更を求めにくくなるケースもあります。

実際のリスク

解約の意思表示期限を見落として、不要なサービスや取引関係が1年間延長されるケースは実務でも多く見られます。長期間の自動更新が繰り返されると、実質的に抜け出せない契約関係になる場合もあります。

専門家なら何を確認するか

  • 解約の意思表示期限(「〇ヶ月前」)が実務的に対応可能な期間か
  • 更新後に条件変更を申し出る余地があるか
  • 自動更新の上限回数・上限期間が設定されているか

4. 解除事由の限定条項

なぜAIが見落とすのか

解除条項には「〜の場合に解除できる」という形式と、「〜の場合に限り解除できる」という形式があります。後者は解除事由を限定しており、想定外のトラブルが起きても契約を解除できないという事態を招くことがあります。

AIは条項の存在を認識しますが、「この解除事由の列挙が十分か・網羅的か」という実質的な評価は難しいのです。

第○条(解除)
甲は、乙が以下の各号のいずれかに該当した場合に限り、本契約を解除することができる。
一 支払いを怠り、催告後も改善がない場合
二 破産手続開始の申立てがあった場合

この例では、「乙が重大な秘密情報を漏洩した場合」「乙が契約目的を達成できない状態に陥った場合」などが解除事由に含まれていません。相手方が深刻な契約違反をしても、この条項では解除できない可能性があります。

解除条項の基本的な仕組みについては「契約書の解除条項」もあわせてご参照ください。

実際のリスク

相手方が重大な義務違反を犯しても、解除事由に該当しないとして契約継続を強いられるケースがあります。特に「〜に限り」という限定文言が入っている場合は注意が必要です。

専門家なら何を確認するか

  • 解除事由が「限定列挙」か「例示列挙」かを確認する
  • 自社が解除したいと考える典型的な場面が事由に含まれているか
  • 無催告解除が認められるケース(重大違反・信頼関係の破壊)が明記されているか

5. 合意管轄条項

なぜAIが見落とすのか

合意管轄条項とは、「紛争が生じた場合に、どの裁判所を管轄とするか」を定めた条項です。AIは条項の存在を認識しますが、指定された裁判所が自社にとって負担かどうかという実務的な評価は行えません。

第○条(合意管轄)
本契約に関する紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

自社が大阪に拠点を置く中小企業であれば、東京の裁判所で争うことは時間的・費用的に大きな負担となります。しかしAIは「合意管轄条項あり・東京地裁」と認識するのみで、自社にとっての不利益を指摘しにくいのです。

実際のリスク

遠方の裁判所が指定されていると、実際に紛争になった際の交通費・弁護士費用・移動時間が大幅に増加します。費用負担が重く、泣き寝入りせざるを得ないケースもあります。

専門家なら何を確認するか

  • 指定された裁判所が自社の拠点から合理的な範囲か
  • 「専属的」管轄か「非専属的」管轄かを確認する(専属的の場合、他の裁判所では争えない)
  • 相手方の主張だけが通りやすい不均衡な設定になっていないか

AI契約書レビューとの付き合い方

AIによる契約書チェックは、確認作業の効率化に非常に役立つツールです。しかし、上記のような条項の実質的な有利・不利や業界慣行との整合性については、AIだけに任せることにリスクがあります。

ChatGPTで契約書テンプレートを流用するときの落とし穴」や「AIで作った契約書ひな形を使う前の確認ポイント」でも解説していますが、AIが生成・チェックした契約書を実務で使用する際は、専門家による確認を組み合わせることが重要です。

また、「生成AIに契約書の条項を解説させるときの注意点」で指摘しているように、AIの解説を鵜呑みにすることにもリスクがあります。さらに、「AIで作った日本語の落とし穴」では、AIが生成する文章自体の問題点についても取り上げています。

契約書の管理面では「AIで契約書を管理する時代の紛失対策」もご参考ください。

電子契約で締結する場合の基本知識については「電子契約・電子署名とは」をご覧ください。


■まとめ

AIレビューで見落とされやすい契約書の条項5選を振り返ります。

  • 損害賠償の上限額条項:金額の妥当性・片務性の評価はAIが苦手。上限額が自社のリスクに見合っているか必ず確認する
  • 競業避止義務条項:有効性の判断(期間・地域・代償)は文脈評価が必要。過度に広い範囲は無効となるリスクもある
  • 自動更新条項:解約申し入れの期限を見落とすと不要な契約が継続する。期限管理の仕組みをセットで整備する
  • 解除事由の限定条項:「〜に限り」という限定文言が自社を縛る。想定されるトラブルシナリオを網羅しているか確認する
  • 合意管轄条項:遠方の裁判所指定は紛争時の大きな負担になる。「専属的」管轄かどうかも確認ポイント

AIツールは契約書レビューの強力なサポーターですが、上記のような条項については専門家の目による確認が不可欠です。「一応チェックしたけれど本当に大丈夫か」と感じたときは、専門家への相談をお勧めします。


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