■はじめに
「ChatGPTに契約書を作ってもらったけど、これで本当に大丈夫?」
AI(人工知能)を使って契約書を作成する方が増えています。確かに、AIは短時間でそれらしい文章を生成してくれます。しかし、AIが作った契約書の「日本語」には、一見気づきにくい落とし穴が潜んでいます。
問題は文法の正しさではありません。AIが生成した文章は流暢で読みやすいことが多いです。問題は、法的な観点から見たときに意味が曖昧になる表現が紛れ込むことです。契約書において曖昧な表現は、後々のトラブルの原因になります。
この記事では、AIが生成しがちな問題表現の具体例と、なぜそれが法的に問題になるのかを解説します。生成AI・契約書の注意点を知っておくことで、思わぬリスクを防ぐ参考にしてください。
AIが作る契約書の日本語に潜む問題とは
「正確な日本語」と「法的に明確な日本語」は違う
AIが生成する文章は、文法的には正しいことがほとんどです。しかし契約書において重要なのは、文法の正確さではなく、法的な場面でも一義的に解釈できる明確さです。
日常会話では「適切に対応します」で通じます。しかし契約書でこの表現を使うと、「何をもって適切とするか」が当事者間でずれたとき、どちらが正しいかを判断する基準がなくなります。
AIは大量のテキストデータを学習して文章を生成しますが、その文章が特定の契約関係において法的にどう解釈されるかを判断する機能は持っていません。この点が、AIと人間の専門家の決定的な違いです。
AI契約書に頻出する曖昧表現と問題点
「速やかに」「遅滞なく」「相当の期間内に」
NG例:
> 乙は、甲から通知を受け取った場合、速やかに対応するものとする。
問題点:
「速やかに」は法律用語としては「可能な限り早く」という意味ですが、具体的な日数が定められていないため、何日以内に対応すれば「速やかに」対応したといえるのかが不明確です。トラブルが起きたときに「3日で対応した」「いや10日かかった」という水掛け論になります。
改善例:
> 乙は、甲から通知を受け取った日から5営業日以内に対応するものとする。
具体的な期間・日数を数字で定めることで、解釈の余地をなくします。
「適切に」「合理的に」「相応の」
NG例:
> 乙は、甲の秘密情報を適切に管理するものとする。
問題点:
「適切に」という言葉は、管理の具体的な方法・水準を何も定めていません。情報漏えいが起きたとき、「適切な管理をしていた」と主張する乙と「適切ではなかった」と主張する甲の間で、何が「適切」かを争うことになります。
改善例:
> 乙は、甲の秘密情報を、自己の秘密情報と同等以上の注意をもって管理し、施錠可能な保管庫への保管またはパスワードによるアクセス制限を施すものとする。
管理方法を具体的に列挙することで、水準が明確になります。
「その他の事情を考慮して」「諸般の事情に鑑みて」
NG例:
> 報酬額は、業務量その他の事情を考慮して決定するものとする。
問題点:
「その他の事情」という言葉は範囲が無限に広がります。報酬の決定プロセスが不明確なため、どちらがいくら払うかで争いになった場合に、契約書が判断基準として機能しません。
改善例:
> 報酬額は、月額○○円とし、業務量が月○時間を超えた場合は、超過分について1時間あたり○○円を加算するものとする。
具体的な金額・計算方法を定めることが重要です。
「協議の上で決定する」「双方合意の上で対応する」
NG例:
> 本契約に定めのない事項については、甲乙協議の上で決定するものとする。
問題点:
この表現自体は一般的ですが、AIはこれを多用しすぎる傾向があります。具体的な決定手続き(誰がどのように提案し、何日以内に回答するか)が定められていないため、協議が成立しなかった場合の処理が不明確になります。
改善例:
> 本契約に定めのない事項については、甲または乙が書面で協議を申し入れ、申し入れを受けた日から14日以内に双方が合意に至らない場合は、○○を基準に処理するものとする。
なお、「甲乙協議の上で決定する」「誠実に協議する」といった表現を契約書から完全になくすべきというわけではありません。契約書はあらゆる事態を事前に想定して書ききることは現実的ではなく、一定の「余白」として機能させることには実務上の意味があります。重要なのは、金額・期間・義務の内容など、トラブルになりやすい核心部分は具体的に定め、細部の運用については協議条項で柔軟に対応できる余地を残すというバランスです。どこまで具体的に定めるかは、当事者間の関係性・取引の性質・リスクの大きさによって異なります。
「必要に応じて」「状況によっては」
NG例:
> 乙は、必要に応じて進捗報告を行うものとする。
問題点:
「必要に応じて」とは、誰が必要と判断するのかが不明確です。乙が「必要ない」と判断し続ければ、一切の報告義務を履行しなくても契約違反とはいえなくなります。
改善例:
> 乙は、毎月末日に甲に対して業務の進捗報告書を提出するものとする。また、甲から書面で求めがあった場合は、求めを受けた日から3営業日以内に報告するものとする。
ChatGPT・生成AIが契約書の精度を保てない理由
AIは「一般的な文章」を生成するが、契約は「個別の関係」を規律する
生成AIは、インターネット上の大量のテキストから学習して文章を生成します。そのため、一般的な契約書のひな型に見られる表現は上手く生成できます。
しかし契約書は、特定の当事者間の特定の取引を規律するものです。AIは「この取引ではどのようなリスクが生じうるか」「この業種では慣行としてどのような条件が設定されるか」「この当事者間の力関係ではどちらに有利な条件を設定すべきか」といった文脈の判断ができません。
AIは法改正に追いつけない場合がある
生成AIには学習データの「カットオフ(締め切り)日」があります。それ以降の法改正や判例の変化は反映されません。
例えば、2020年の民法改正では、瑕疵担保責任が「契約不適合責任」に改められ、権利行使期間などのルールが変更されました。古いひな型をもとに学習したAIが、改正前の表現をそのまま使った契約書を生成する可能性があります。
文脈依存の問題はAIには判断できない
同じ言葉でも、業種・取引内容・当事者の属性によって意味が変わることがあります。
たとえば「業務委託契約」でも、IT開発業務と清掃業務では、成果物の定義・検収基準・著作権の帰属・再委託の可否など、記載すべき事項がまったく異なります。AIはテンプレートに近い文章を生成しますが、その取引に固有のリスクポイントを洗い出して条項化することは苦手です。
AI契約書の「法的に無効」になりうる表現
すべての曖昧表現が直ちに「法的に無効」となるわけではありません。しかし、以下のような場合は、条項全体が効力を持たない可能性があります。
- 意思表示の内容が確定できない場合:何を約束したのかが客観的に特定できない条項は、そもそも合意内容として成立しないとみなされる場合があります。
- 強行法規に違反する場合:法律で最低限の保護が定められている場合(労働法・消費者契約法など)、それを下回る内容は無効になります。AIはこうした強行法規との整合性を自動的には確認しません。
- 公序良俗に反する場合:民法90条により、公序良俗に反する法律行為は無効です。AIはこの判断を行う機能を持ちません。
専門家チェックが必要な理由
「読めばわかる」は危険なサイン
AIが生成した契約書は読みやすいことが多く、「これで問題なさそう」と感じやすいです。しかし法的に問題のある表現は、読みやすい文章の中に埋め込まれていることがあります。
専門家によるリーガルチェックでは、文章が読みやすいかどうかではなく、法的に意味が一義的に確定しているか・実務上のトラブルになる可能性のある箇所はないかという観点で確認します。
行政書士によるリーガルチェックで確認できること
行政書士は、契約書の作成・チェックを業務として行います(行政書士法第1条の2・第1条の3)。
具体的には以下のような観点で確認します。
- 曖昧表現・解釈の余地がある条項の洗い出し
- 具体的な数値・手続き・条件への修正提案
- 契約の目的・取引内容に合った条項の過不足チェック
- 一般的な民法・商法の観点からの整合性確認
なお、訴訟対応・紛争解決・刑事事件などへの対応は弁護士の専権事項であり、行政書士の業務範囲外です。契約締結前の書類作成・内容確認の段階でご活用ください。
■まとめ
AIで作った契約書の「日本語」に潜む落とし穴について解説しました。ポイントを整理します。
- AIは流暢な日本語を生成するが、法的に一義的な表現かどうかは別問題
- 「速やかに」「適切に」「必要に応じて」など、曖昧な副詞・形容詞は具体的な数値・手続きに置き換えることが重要
- AIは個別の取引の文脈・業種慣行・法改正に対応できない
- 意味が確定できない条項は法的な効力を持たない場合がある
- 契約締結前の段階では、行政書士によるリーガルチェックを活用することで、こうした問題を事前に防ぐことができる
- 曖昧表現をすべてなくすのではなく、核心部分は具体化し、細部には協議の余地を残すバランスが重要
AIを活用した契約書作成は効率的なスタートとして有効ですが、最終確認には専門家の目が不可欠です。
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