契約と似た存在として、約款というものがあります。インターネットやホテルの宿泊、保険の申し込みや電気水道などのインフラ等を利用する際などの機会に、誰でも一度は目にした事があるのではないでしょうか。
約款とは、大量の同種取引を迅速・効率的に行う等のために作成された定型的な内容の取引条項を指します。例えば、鉄道やバスの運送約款、電気・ガスの供給約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約など、多様な取引において広く活用されています。
今回は契約と約款の違いについて、簡単に説明します。
1.対象の違い
約款と契約の大きな違いは、対象(相手方)にあります。
契約が特定の当事者同士が結ぶものであるのに対して、約款は不特定多数の取引相手と契約を結ぶための手段となります。
先ほど例に出した鉄道やバスの運送約款、電気・ガスの供給約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約などのサービスは、不特定多数の顧客を相手にする必要があるため、一件ずつ契約を締結しようとすると、手続きも書類管理も非常に煩雑となってしまいます。
約款はこのように不特定多数の相手方に対して、まとめて契約を締結したい、といった場合に用いられます。
2.個別交渉はできない(※)
特定の当事者同士で締結する契約では、個別交渉が可能です。契約自由の原則(民法521条)に基づき、法令の制限内であれば、当事者同士がお互いの要望をすり合わせて、自由に契約内容を決めることができます。
一方で、約款の場合は、基本的に個別の交渉はできません。約款は不特定多数を相手に、定型的な内容について、まとめて契約することを目的として定められているためです。
※一部の条件について、個別交渉が可能な約款ものもあります。
3.事業者側が一方的に内容変更ができる
民法では、締結した契約内容の変更には、当事者の合意が必要とされています。
一方で約款の場合、法令の範囲内で事業者側からの一方的な変更が可能となっています。ただし、その変更が「相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する」場合には、無効と判断される場合もあります。
4.約款と定型約款の違い
約款も契約の一形態ですが、以前は「約款」についての明確な規定はなく、事業者によってその考え方や扱いが微妙に異なっていました。そのためトラブルにつながることも多くありました。
そのため、現在の民法では「定型約款」が定義されています(民法第五款 第548条の2~4)。
従来の約款が無効になるわけではなく、約款の中でも民法の条件を満たしたものを定型約款として定義したわけです。
5.定型約款とは
定型約款とは、事業者が準備する約款のうち、次の要件を満たすものです。
1)事業者が不特定多数の者を相手方として行う取引であること
2)内容の全部又は一部が画一的であることが、双方にとって合理的であること
定型約款は「定型約款を契約の内容とする旨の合意」をするか、「事業者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示」することで、契約したものとみなされます(みなし合意)。
ただし、「相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項」であったり「社会通念に照らして、信義則に反して相手方の利益を一方的に害する内容」がある場合は対象外となります。
定型約款の変更は「変更が相手方にとって利益となる」場合か、「変更が契約の目的に反せず、合理的」である場合に、事業者が一方的に変更することができます。定款を変更する際には、変更時期を決めて周知するなどの手続きが必要となるため、専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
なお、内容の変更が相手にとって不利であったり中立的な場合には、必要性や相当性、定款に変更することがある旨の記載があるかなどを総合的に考慮したうえで判断されます。特に相手方にとって不利となる内容の変更をしようとする場合には、トラブルにつながりやすいため、専門家(弁護士)に相談しながら進めるのが良いでしょう。
1 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。