契約は民法において、書面を作成しなくても成立します(民法第522条2項)。それなのに契約書を作成するのはなぜでしょうか。
契約書を作成することのメリット(利点)は、大きくふたつあります。
1.お互いの考え(要望)を整理できる
契約を結ぶためには、お互いの考え(要望)を出し合って、すり合わせる必要があります。
電話や電子メール等を使って意思疎通を図ることも可能ですが、これらの手段は個々の話題が頻繁に移り変わっていくため、全体を整理しながらまとめるのが難しい場合があります。また、「きっと」「おそらく」「ふつうは」といったあいまいな表現や推測に基づくコミュニケーションは、後々の誤解やトラブルを招く可能性があります。
契約書はあいまいな表現を極力排除し、明確な文章で双方の考えや要望を整理して作成します。そのプロセスを通じて、契約の内容が明確化されていくのです。また、契約書は全体像を俯瞰するためのプラットフォームとして機能し、要望や条件を一元管理するのにも役立ちます。
契約書は形式ばった堅苦しい印象を与えますが、だからこそ「間違えの無いように要望を伝えなくては」という意識も働きます。
2.契約の内容を形式的に残せる
契約締結時の当事者間の合意内容を形式的な形で残すことができるのも、契約書を作成する大きな利点です。
人間の記憶力は完ぺきではありません。時間が経つにつれて、過去の出来事は忘れてしまいますし、都合の良いように覚え違いをしてしまうこともあります。さらには、契約を結んだ当事者が人事異動や退職などで不在になってしまうということもあるでしょう。
契約内容を形式的な文書として記録しておくことで、後から内容を振り返ることができ、相手とどのような約束をしていたのかを把握し、守ることができます。さらに、トラブルに発展した際には、契約書が有効な証拠として利用できます。
個人的には、ビジネスの場で非常に役に立つと感じる機会が多いのは前者です。口頭やメールでのやり取りだけでは整理がつかず、効率的な進展が難しい場合には、契約書の作成を提案することが解決の一助になるかもしれません。
民法 第522条2項
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。